プロジェクト一覧
  • ロボット工作
  • ロボット部
  • サイエンスクラブ
  • 玉川学園高学年情報科
  • 機械情報PBL
  • ロボカップ@home
  • 脳とロボット展
  • ロボカップ@home camp

TRCP-HOME > ロボカップ@home > プロジェクトの概要・目的

ロボカップ@home

プロジェクトの概要・目的

目的と意義

ロボカップはロボット工学と人工知能の融合、発展のために自律移動ロボットによるサッカーを題材として日本の研究者らによって1992年に提唱されました。西暦2050年に「サッカーの世界チャンピオンチームに勝てるロボットのチームを作る」という夢に向かって人工知能やロボット工学などの研究を推進するプロジェクトです。現在では、サッカーだけでなく、大規模災害への応用としてレスキューロボット、次世代の担い手を育てるジュニアなどの競技があります。

ロボカップ@ホーム(以下@ホームリーグ)はその一つで、日常生活で人間を支援する自律ロボットによる競技を通じて、人とコミュニケーションしながら、より役に立つ仕事を行う実用的なロボットの実現を目指します。

@ホームリーグの競技は、いくつかの共通タスクと、各チームが独自に設定するオープンチャレンジ、デモチャレンジ、ファイナルがあります。

共通タスクは毎年、技術の進歩に応じて適切な難易度のタスクに変更されていきます。

競技会の勝敗は単純に課題の成功・失敗だけでは決まらず、以下に挙げるような様々な視点から採点されて、現実の家庭で使う実用性を重視したものになっています。また、動作の信頼性・安全性も評価するため、競技は基本的に一発勝負で再試行は減点となります。

これらの基準を満たしつつタスクを一発勝負で確実に実行できるロボットは、家庭用ロボットとしては高いレベルにあると考えられます。そのようなロボットは、将来の社会ニーズへの答えとなるという意味で、@ホームリーグは人工知能の重要なテーマの一つです。

共通課題

2010年度世界大会のルールでは、競技は7つの共通タスクと2つのチャレンジ種目および決勝のファイナル競技からなります。

1.Robot Inspection and Poster Session (RIPS)
すべての最初の競技タスクであり、ロボットとチームのメンバーを他のチームに紹介すると同時に、ロボットがルールの基準に適合した安全性を持っていることを審判団に示します。制限時間は7分間で、初めの2分でロボットは自らが自己紹介を行い、緊急停止ボタンが有効であることを示します。

続いて、チームリーダーがチームを紹介し、他のチームリーダー達からの質問に応えます。プレゼンテーションや質問に対する応対も採点対象で、他チームのリーダによる投票で得点が決まります。RIPSは簡単な競技ですが、ロボットの安全性を疑われた場合は以降の競技には参加できなくなる重要なタスクです。写真1に2010年世界大会(シンガポール)でのRIPSタスクの様子を示します。

Robot Inspection and Poster Session
写真1:Robot Inspection and Poster Session

2.Follow Me
ロボットが動的環境の中、知らない人の後を安全についていくことを競います。このタスクは競技場の外で行われます。最初に、未知の人物がロボットの前に立ち、ロボットはその特徴を記憶します。その人物の音声やジェスチャーの指示によりロボットは人物の後を追い始め、予め定められたコースに沿って最低1mの距離を置いてついていきます。人物はロボットに背を向けてゆっくり歩き、ロボットが遅い場合は立ち止り待ちます。

コースには4つのチェックポイントがあり、それぞれのポイントで特別なアクションを実行します。例えば、ロボットが停止している間に3m以上離れてしまった人物を再発見して追跡するなどで、それがクリア出来なければ、その時点でタスクは終了します。

人物追跡の基本的な機能に加え、障害物や一般の観客などの外乱の多い実環境での確実な動作が要求されます。



Shopping Mall
写真2: Shopping Mall

3.Shopping Mall
実際の店舗を利用し、はじめてそこに行って店内と商品配置を覚え、音声で指定された商品を取って来るタスクです。2010年の世界大会では会場の近くのトイザラスで行われました。第1段階で、ロボットは人について店内を移動して地図を作り、次にその人物から音声で店内にある商品を指定されます。指定は商品名でだけで、その正確な場所は示されません。第2段階では、店の入り口で商品を2個指定され、ロボットは完全自律で取りに行きます。その際、一般のお客さんに相当するマスコミの人々やチームメンバーが店内におり、移動コースの探索や移動そのものもその場の状況に合わせて行なう必要があります。また、指定された商品の周囲には多くの玩具が置いてあり、その中から対象物を探し出すことも必要です。

4.チャレンジおよびファイナルタスク
オープンチャレンジとデモチャレンジ、ファイナルタスクは、それぞれのチームが与えられた時間の中で自由に設定した課題を見せ、審判団が採点します。チームは制限時間をプレゼンテーション、デモンストレーションおよび質疑応答に自由に割り振り、自分たちの技術を審判団にアピールします。

予選第一ラウンドの最後に行われるオープンチャレンジは研究的要素が重視され、ロボットの機構の斬新さや制御アルゴリズムの新規性などが問われます。他チームのリーダーが専門的な視点から採点します。

予選第二ラウンドの最終種目であるデモチャレンジは、大会ごとに設定されるテーマに従ったデモンストレーションを行ない、観客が見て楽しい内容かが評価されます。2010年の世界大会では "In the restaurant"というテーマが設定され、各チームが様々な趣向を凝らしたデモンストレーションを行いました。写真3は我々のチームの様子です。レストランでの接客を想定し、1台のロボットがウェイトレス役で客役の審判と対話や質問への応答をしている間に、もう一台が実際に綿菓子を作って審判にふるまいました。

デモチャレンジ。客の注文を受けるロボット(左側)と離れた場所で綿菓子を作るロボット
写真3:デモチャレンジ。客の注文を受けるロボット(左側)と離れた場所で綿菓子を作るロボット

ロボカップ@ホームの技術的な課題

1.ビジョンシステム
@ホームリーグでは、人とロボットが共存する現実の家庭環境を前提としています。そのため、会場の照明が足りなくても、取材カメラの影響でスポットライトが当たっても、特に配慮されず、安定して動作するビジョンシステムが特に必要とされます。

2008年の世界大会では、ほとんどのチームがステレオカメラを使用していました。しかし、照明が不安定で時に外光が射すような環境では、高精度の認識は困難でした。しかし2010年の世界大会では我々のチームを含め多くのチームがTOF方式3次元距離カメラSwissRangerを使用していました。SwissRangerは50fpsで距離画像を得られ、照明の影響もほとんど無く、オブジェクト把持や人物追跡に有効でした。2011年の大会では多くのチームがKINEKTをセンサーとして利用していました。現実環境でも安定した画像認識のできるハードとソフトは今後も課題であり続けます。

2.音声対話
課題の第一は騒音対策です。ロボカップ会場では、場内アナウンスなど様々の雑音があります。その中で安定した音声認識や言語理解を行うには多くの工夫が必要です。

ハード面では、超高指向性ガンマイクが有効です。ロボットとの対話ではユーザはロボットの顔を見て話しかけてくれるので、顔の部分にマイクをつけると騒音を低減できます。しかし今後も複雑・高度化していくであろう課題に対しては、マイクロフォンアレイ等の利用も必要かもしれません。

ソフト面では外国語への対応が必要です。世界大会ではロボットの対話も英語ですが、我々の日本語訛りの英語、アメリカ人の標準的英語、ドイツ訛りの英語など、バラエティに富んだ不特定話者の英語認識が必要です。いずれ観客との対話を想定する可能性もあり、その場合は現地語や大きく訛った英語への対応が必要でしょう。

3.マニピュレーション
他の課題に比べ、物体把持を必要とするタスクの成功率は相対的に低いです。2010年度の世界大会では1チームのみが冷蔵庫のドアを開けることに成功しました。その一因に、@ホームリーグで使われるような小型移動ロボットに搭載可能なロボットアームが少ないことがあります。小型サーボモータを用いた自作アームも見られますが、位置決め精度や把持可能重量などに多くの改良が必要です。

4.ロボットプラットフォーム
家庭と同じ程度の広さのリビングやキッチンを走行するため出来るだけ小型で小回りが利くボディが必要な一方、アームやステレオカメラなどかなりの重量を積載できるロボットが必要ですが、市販ロボットはどれも一長一短です。

ロボカップ@ホームへの新規参入は、ロボット製作の他、地図作成や経路探索、ビジョン、音声対話などをすべて実装する必要があり、大変な労力が要ります。そのため、市販ロボットにフリーソフトを組み合わせた標準ロボットプラットフォームを用意して、参入障壁を低くする必要性が指摘されています。

そこで、我々はロボットシステムの開発を共通化し効率化を実現する手段として、RT(Robot Technology)ミドルウェア(以下、RT ミドルウェアと記す)に注目しています。RTミドルウェアはロボット機能のソフトウェア要素をモジュール化された部品とし、これらの部品を通信を介して組み合わせることによってシステムを構築できるようにするもので、@ホームリーグのように多様なタスクを要求されるロボットシステムに適していると考えています。

まとめ

我々は玉川大学、電気通信大学、(独)情報通信研究機構の合同チームeR@sers(イレイサーズ)として2008年度の大会からロボカップ@ホームリーグに参加しています。ジャパンオープンでは2008年沼津大会から3連覇を達成し、世界大会においても2008年中国大会で優勝、2009年オーストリア大会準優勝、2010年シンガポール大会優勝と上位の成績を収めています。

ロボカップ世界大会での@ホームリーグへの参加チームは2007年のアトランタ大会の15チームから2010年のシンガポール大会は24チームと年々増加の一途とたどっています。

最近の日本では企業を中心としてホームロボットやサービスロボットの開発に力を入れ、音声対話や対人認識などの技術を応用したコミュニケーションロボットも市販されています。本稿で述べたように、@ホームリーグでの技術課題はそのままロボット工学や人工知能の研究が抱えている研究課題といって過言ではなく、ロボット研究の実践の場として適切ではないかと考えます。本稿を読んで多少なりとも興味を持たれた方は、是非、企業や大学の区別無く@ホームリーグへの参加をお願いする次第です。

参考文献
(1)Attamimi、M.;Mizutani、A.;Nakamura、T.;Sugiura、K.;Nagai、 T.;Iwahashi、 N.;Okada、 H.;Omori、 T.;Learning novel objects using out-of-vocabulary word segmentation and object extraction for home assistant robots, 2010 IEEE International Conference on Robotics and Automation、 745/750(2010)
(2)岡田浩之、大森隆司:ロボカップ@ホーム-人とロボットの共存を目指して-、人工知能学会論文誌、25巻、2号、229/236(2010)

このページの上に戻る